School of Government, Kyoto University Morotomi Lab.

京都大学公共政策大学院 諸富研究室

地域再エネ共同研究プロジェクト

Research Project on Local Renewable Energy Economics

太陽光発電協会と京都大学による連携セミナー(2025)

SOLARWEEK2025セミナー7/京都大学との連携セミナー議事録

議題

「建物設置の太陽光発電が、いかに脱炭素化に貢献できるか」

日時

2025年11月12日(水)
15:15~17:00

場所

Zoomを使ったオンライン配信

登壇者・論題

●司会

京都大学公共政策大学院
教授 諸富徹

●「屋根載せ太陽光で実現する健康・快適・安心な暮らし ~全ての人に恩恵がある「住⺠ファースト」の再エネを普及させよう~」

東京大学大学院工学系研究科建築学専攻
准教授 前真之

●「建築における太陽光発電の可能性」

東北芸術工科大学
教授 竹内昌義

●「住宅用PVの位置づけ GX ZEHへの期待」

一般社団法人太陽光発電協会
シニアアドバイザー 塩将一

●「ニッポンのすべての屋根に、太陽光発電を。」

一般社団法人太陽光発電協会 地域共創エネルギー推進委員会委員
株式会社エクソル 楠田大佑

●パネルディスカッション
 「太陽光発電は、どうすれば地域を豊かにし、裨益・貢献できるか考えてみよう」

モデレータ
京都大学公共政策大学院
教授 諸富徹

内容

最初に 、登壇者4名によるプレゼンテーションがなされた 。以下に各報告を要約する。

前氏は、PV設置を要求しない現行のZEH水準は不十分だと指摘した。そしてPVへの理解を促すためには、当事者である居住者に一番の恩恵を届ける普及策が必要であると強調した。また蓄電池についても、現行の補助金による誘導策は、予算制約や供給側の負担が大きいために望ましくないという。そのため補助金だけでなく、省エネ性能やPVを含めた住宅価値を適切に評価できるような金融や不動産の役割が重要だとした。そして最後に、賃貸住宅の省エネ性能を向上させる取り組みを紹介した。

竹内氏はまず、スイスでの省エネ建築事例を紹介した。この事例では、壁面へのPV設置や木造建築によって、ライフサイクル全体でのCO₂排出量を削減している。続いて日本での事例として、竹内氏らが手掛けた社員寮の実績を挙げた。これは、省エネ化やPV設置、地域熱供給によって、脱炭素化だけでなく光熱費を削減した事例である。最後に、家庭用エアコンを活用した小学校体育館の断熱・省エネ改修を取り上げた。これは、整備コストを抑えながら電気代を削減し、児童の健康や防災対策にも寄与する取り組みである。

塩氏は、ZEHの判断基準および採用状況に関する最新の動向を共有した。住宅のZEH採用状況は、住宅事業者の種類によって格差があることを指摘した。そして、これからの住宅における自家消費の最適化について二つの方向性を示した。一つは系統への負荷抑制を重視する売電最小化、もう一つは再エネ率の向上を目指す買電最小化である。このどちらを優先するかは、状況に応じて対応する必要があると述べた。

楠田氏は、太陽光発電と地域との両立に向けた、良いPVと悪いPVを区別し評価するための制度を紹介した。これは、違法・不適格設備の取り締まり制度と格付け制度からなる二階建てシステムである。実際に評価を行った結果、改善の余地があるPV導入が多いことが明らかとなった。続いてオンサイトPVの事例として、堤防やプール、垂直設置や水上設置など最新の導入事例について紹介した。

パネルディスカッションでは、建物設置型PV導入の障壁とその解決策が主な論点となった。以下は議論の要約である。

初めに諸富氏が、ZEHおよびPV導入に対する事業者ごとの温度差、既存建築物の省エネ改修の進め方について問題提起を行った。

前氏は、住まい手側に省エネや再エネのメリットを感じてもらうことが大事であると指摘した。というのも、需要側からPV導入への要求が強くなれば、事業者側も供給せざるを得なくなるためである。そして、導入にかかる初期費用は補助金だけでは限界があり、融資や価格査定の仕組みを構築する必要があると付け加えた。

竹内氏は、いきなり最高水準のPV導入を達成するのは難しいと述べた。そのうえで、ポータブル電源と組み合わせるなど、家電の一部のような身近なところからPVを取り入れるのはどうかと提案した。

塩氏は、既築改修の将来的な問題を二つ挙げた。一つは、2050年カーボンニュートラル目標に向けて省エネ改修を行っても、それらがストックとしていつまで残るのかという問題である。もう一つは、設備の耐用年数と住まい手の高齢化によるリスクをどう天秤にかけるかという問題である。

楠田氏は、PV設置の工程上の問題を挙げた。新築工事の際にPV設置を工程に組み込んで施行する事業者と、後付けで設置する事業者があり、後者の場合は作業効率的にもコスト的にも良くないと指摘した。これについて前氏は、PVの仕入れや施工を内製化し、事業者の利益に繋げることが大事であることを強調した。

続いて、高性能賃貸住宅や体育館などの公共施設における省エネ改修や蓄電池導入に関する課題が論点となった。

前氏は、導入支援については全ての人にとってフェアであることが重要だと述べた。そのため補助金頼りではなく、建築物の価値を適切に評価し、融資を促進させる制度が必要であると主張した。

竹内氏は、省エネ改修に関して、設備性能や建築基準だけでなく、価格情報をきちんと共有するべきだと指摘した。

塩氏は、蓄電池を導入した際の光熱費削減効果の試算を共有した。結果として、新築であれば十分に経済性があるが、既築改修では更なるコストダウンや他の方法が必要であることを示した。

楠田氏は、PVに興味がない人を含めたいろいろな層に刺さるアプローチが必要であると述べた。そのためには、PPAによって経済性をアピールするなど、必ずしもPVであることを全面に出さないことも戦略として有効ではないかと指摘した。

最後に締めくくりとして、各登壇者が一言ずつコメントした。前氏は、建物改修であれば地元業者でも十分に可能であるため、省エネ改修やPV設置を地元の利益に繋げることが必要であるとした。竹内氏は、公共施設が省エネや再エネによる便益を、どのように地域に配ることができるかが重要だと述べた。塩氏は、将来的には余剰電力をどう活用するかというまちづくりの視点が必要になるとした。楠田氏は、災害時のレジリエンス向上など、わかりやすいメッセージを伝えることが重要だと述べた。

コメント

本セッションを通じて強調されていたのは、いかに住宅用PVや省エネ・断熱改修を生活上の便益に繋げるかということであった。もちろん導入に際しては、技術的条件や脱炭素目標との整合性は欠かせない。しかしそれだけでなく、省エネと再エネが住まい方をいかに変えるかという視点も重要である。光熱費の削減や健康の向上、レジリエンスの向上など、本セッションで挙げられた住宅用PVや省エネ改修のメリットは、地域に裨益するだけでなく、地域に住む人々の居住空間を豊かにするといえる。

住宅用PVが他の再エネに増して生活上の便益を求められるのは、それが「家」に関わるものだという点である。これは自明だと思われるかもしれない。しかし、バシュラールが指摘するように、「現実にひとがすんでいる空間にはみな家の概念の本質がある(バシュラール『空間の詩学』p46, ちくま学芸文庫, 2002)。」住宅用PVや省エネ・断熱改修は「家」の本質を変化させることで、翻って住まう存在である人間のあり方にも影響を与えうる。

1.共催

京都大学諸富研究室「地域再エネ共同研究プロジェクト」 、一般社団法人太陽光発電協会(JPEA)

2.開催日時

2025年11月12日(水)
15:15~17:00 <オンライン>

3.プログラム

司会

亀田正明氏

15:15-15:20 セミナーの趣旨説明

京都大学公共政策大学院 教授 諸富 徹

15:20-15:40 「屋根載せ太陽光で実現する健康・快適・安心な暮らし」

東京大学大学院工学研究科建築学専攻 准教授 前 真之氏

15:40-16:00 「建築における太陽光発電の可能性」

東北芸術大学工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン領域 教授 竹内 昌義氏

16:00-16:10 「住宅用PVの位置づけ GX ZEH(-M)への期待」

JPEA事務局 シニアアドバイザー住宅用太陽光担当 塩 将一氏

16:10-16:20 「ニッポンのすべての屋根に、太陽光発電を。」

株式会社エクソル/JPEA地域共創エネルギー委員会 楠田 大祐氏

16:20-17:00 パネルディスカッション「太陽光発電は、どうすれば地域を豊かにし、裨益・貢献できる考えてみよう」

モデレータ:諸富 徹