School of Government, Kyoto University Morotomi Lab.

京都大学公共政策大学院 諸富研究室

地域再エネ共同研究プロジェクト

Research Project on Local Renewable Energy Economics

地域再エネ共同研究キックオフシンポジウム2025

『地域再エネ』を地域発展の柱に~地域経済循環、受容性、主体形成~

開会の挨拶
地域再エネ研によるプレゼンテーション
基調講演「再エネ推進と地域の持続可能性」
第2部パネルディスカッション(司会:諸富徹)

1.主催

京都大学公共政策大学院 諸富研究室『地域再エネ共同研究プロジェクト』

2.開催日時

2025年5月9日(金)14:00~17:00
※18:00~ 懇親会

3.会場

京都大学百周年時計台記念館国際交流ホール
〒606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学吉田キャンパス内

4.プログラム

 本シンポジウムは本年度、新たにスタートを切ることになった地域再エネ共同研究のキックオフ・イベントとなります。この共同研究は、(株)日本風力開発と京都大学の諸富研究室が協力して推進し、再エネの地域経済効果の分析を通じて、再エネが地域発展にどのように寄与しうるかを明らかにすることを目的とします。

 シンポジウムではこの研究目的のほか、関連して再エネの地域受容性をどう高めるか、地域で再エネ事業を推進する主体(人と組織)のあり方をどう考えるか、といった論点についても話し合います。

 この共同研究では研究だけでなく、再エネ人材の育成にも注力します。京都大学、およびその他の大学の学部学生、大学院生の皆さんの積極的なご参加を歓迎いたします。

 なお、シンポジウム終了後には会場と同じ時計台にてネットワーキングのための懇親会も開催いたします。こちらと併せ、奮ってご参加ください。

2025年5月9日(金)14:00-14:10 挨拶

14:00-14:05
共同研究プロジェクト 代表挨拶
諸富 徹:
(京都大学 公共政策大学院 教授)

14:05-14:10
共同研究参加企業 代表挨拶
須藤 豊:
(日本風力開発株式会社 執行役員)

2025年5月9日(金)14:10-14:30 地域再エネ研によるプレゼンテーション

登壇者(敬称略)

14:10-14:30
「空間スピルオーバーと地域発展」
呉 欽華:
京都大学大学院 特定研究員

第1部 2025年5月9日(金)14:30-15:20 基調講演

登壇者(敬称略)

14:30-15:20
「再エネ推進と地域の持続可能性」
竹ケ原 啓介:
政策研究大学院大学 教授


休憩 15:20-15:30


第2部 2025.年5月9日(金)15:30-17:00 パネルディスカッション(司会:諸富徹)

登壇者(敬称略)

15:30-15:40
「再エネによる地域活性化~風で、地域の未来をつくるという選択~」
千葉 恭平:
(日本風力開発株式会社 洋上開発部長)

15:40-15:50
「営農型太陽光発電による地域農業と再生可能エネルギー発電事業の共生」
馬上 丈司:
(千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役)

15:50-16:00
「エネルギーをハピネスに」
豊岡 和美:
(一般社団法人 徳島地域エネルギー 代表理事)

16:00-17:00
パネルディスカッション
司会:諸富 徹

2025年5月9日(金)18:00-20:00 懇親会

会場 京都大学百周年時計台記念館国際交流ホールⅢ

議事録(キックオフシンポジウム第1部)

地域再エネ共同研究によるプレゼンテーション

呉欽華(京都大学公共政策連携研究部 特定研究員)

第1部 基調講演
竹ケ原啓介(政策研究大学院大学教授)

2025年5月9日
於:京都大学百周年時計台記念館国際交流ホールⅢ

 本シンポジウムは、京都大学大学院公共政策大学院教授 諸富徹先生と、日本風力開発株式会社執行役員 須藤豊様によるご挨拶から始まった。公共政策大学院特定研究員の呉欽華先生による自身の研究手法と今後の取り組みの紹介の後、シンポジウムの第一部として、政策研究大学院大学教授 竹ケ原啓介先生による基調講演が行われた。

空間スピルオーバーと地域発展
呉欽華(京都大学公共政策連携研究部 特定研究員)

 3月神戸大学大学院 経済学研究科経済学専攻 博士号取得し、4月から京都大学 公共政策大学院 特定研究員として地域再エネ研に参加している。空間経済学、空間計量経済学、地理情報学を専攻してきた。
 研究テーマとしては、集積経済、地域発展、移民構造を扱ってきた。主な研究方法は、空間計量経済モデルを用いた定量分析と、地理情報システムと空間統計を用いた空間分析である。今後は再エネが地域発展に与える影響についてみていきたい。

 まず、空間経済学で重要な空間スピルオーバーについて紹介する。空間スピルオーバーは、特定の地域で発生した経済活動や政策の効果が、周辺地域にも波及する現象を指す。これは、地域間の相互依存性や経済的な連携が強い場合に特に顕著である。観光地の開発が進むと、その周辺地域も観光客の増加による経済効果を享受することがある。また、主要都市でのインフラ整備が進むと、その影響が近隣の都市や地域にも及び、経済活動が活発化するか、あるいは抑制される。
 空間計量経済学では、空間的自己相関を測ることで、このスピルオーバーを説明する方法がある。地域データにおいては,各地域の観測値が隣の地域の観測値の影響を受けており,独立ではなく相関している。これを用いて分析していく。距離の近い確率変数が似たような傾向を示すという「正の空間的自己相関」と,距離の近い確率変数が異なった値を示すという「負の空間的自己相関」に大別される。

 次に、問題意識について話す。東京の一極集中と、地方都市の衰退に問題意識がある。
二つの観点がある。一つは、集積経済。東京一極集中経済で、過度な集中生産の状況がある。もう一つは、移民構造。 東京への人口集中と地方都市からの人口流出が継続する構造がある。そして、地域は独立しているのではなく相互に関連しているため、スピルオーバーを考える必要がある。地域の魅力は、すべての地域における「引力」と「押力」の総合的な結果なので、 移住の全体的な傾向を変えることは難しい。
地方都市の若者の流失問題に対する政策がうまく働いていないことも考えられる。政策も、空間構造が重要な要因となる。

 地域の魅力は、「地域魅力度」として見られる。これは地域がどれだけ魅力的であるかを示す指標である。地域魅力に影響を与える要素の例をあげると、経済発展、教育水準等、アメンティ等々がある。このアプローチは、移住者の純数や移住の重力モデルを使用する従来の方法とは異なり、各地域の全国から見ての相対的な魅力を考慮できる。
 これを地域労働力市場に適用することによって、新卒者の就職移動の選択を説明する上で、雇用の多様性や優れたジョブマッチングが、重要な役割を果たすこと等も示すことができる。このことは、地方都市にとって、中心都市と産業の多様性で競うよりも、地域資源に合った特化産業を発展させることが、若者の流失問題に対して効果的な可能性を示唆する。

 地域資源に合った特化産業を発展については、地域協力、空間スピルオーバーによる地域魅力の共同成長が考えられる。したがって、地域資源に沿った新たな観光業、農林漁業、技術サービス業の創出と地域や産業間の連携が重要である。今後は、地域再エネの導入、分散型電力システムの構築と地域魅力の向上に与える影響についても示したい。

 地域再エネの導入と分散型電力システムの構築は、環境に配慮し電力の安定供給や災害に強い地域づくり、カーボンニュートラルの実現に向けた重要な要素となる。同時に、地域経済の活性化や魅力がある雇用創出にも寄与し、地域の魅力度を向上させる。例えば、地域内でエネルギーを自給自足することで、エネルギーコストの削減や災害時のレジリエンス向上が期待できる。また、地域資源を活用した再エネ事業は、観光業や農林漁業、技術サービス業など各産業との連携や、地域課題解決事業を実施することで、地域の魅力度向上や地域経済の活性化に寄与する可能性がある。直接効果だけでなく、スピルオーバーによる間接効果として他の産業や周辺地域への影響も考慮し、地域再エネの地域全体への効果を評価することが重要であると考えられる。

地域再エネ事業のインパクト拡大に向けて

竹ケ原啓介(政策研究大学院大学教授)

 主題は、再エネをどのように整備し、いかに保守・維持していくか。最近は資材コストの上昇や金利高によって、大型プロジェクトが頓挫したという報道もあり、「FITが終わったから再エネは終わりだ」と言いたがる人も多い。しかし、実際は導入が止まるということはなく、日本は2050年カーボンニュートラルを国際的にコミットしている。

 地域と共生しながら再エネを強化するにはどうすればよいのか。呉先生が触れた地域の魅力や、地域資源に根ざした産業を整備する話にも近いが、結局は地域力をどう上げるかという問題。経済活動には「生産」「分配」「支出」という三つの側面がある。従来はエネルギーを外部から輸入していたため、化石燃料購入という巨大な支出が地域外に流出していた。再エネを地元資源で賄えば、この支出からの流出を抑えられる。さらに、地元の工務店や木質資源を活用すれば雇用が生まれ、地域経済への波及効果が高まる。そして、これは外部支出を減らすだけでなく、地域内での所得の循環をどれだけ太くできるかが重要。また、企業経営でも「リスク低減」に終始すると、効果が頭打ちになる。発想を切り替え、再エネを通じて新しい価値を創出し、地域課題の解決や、生産性向上や事業機会につなげる視点が欠かせない。
 環境産業の市場規は、基本的に右肩上がりの成長が続いている。とりわけ温暖化対策関連分野は伸び盛りで、再エネがその中核を占めつつある。今後は、こうした成長を地域の付加価値にどう結び付けるかが大きなテーマになる。

 そこで、日本政府は2050年カーボンニュートラルに向けて「地域脱炭素ロードマップ」という長期戦略を策定し、2020~2025年を集中期間と定め、政策を総動員した。柱は二つある。第一に、全国で少なくとも100か所の「脱炭素先行地域」を設けること。第二に、ハード整備を支援する「重点対策(加速化事業)」を各地で実行する。脱炭素先行地域では、2030年までに民生部門の電力由来排出を実質ゼロにするという意欲的な目標を掲げてもらう。リスクを減らすだけでなく、地域課題の解決や地方創生などのアップサイドを同時に追求する自治体を政府が重点的に支援する、という考え方。また、加速化事業は、特定のハード整備を補助するシンプルな仕組みで、活用方法次第で効果が大きく変わる。
 個々の取り組みを俯瞰すると、新たな課題も浮かび上がってきた。川崎市・横浜市などは着実に成果を積み上げたが、多くの自治体では緑のまま、目に見える成果がまだ得られていない。まず、地域主体の内発性不足。計画段階で想定した合意が運用段階では崩れがちです。また、市民の行動変容をどう具体化するかが曖昧。そして、共有財産が外部資本に吸い上げられるという不信感もある。資金調達でも、融資の場では地域密着・小規模案件の価値が過小評価される課題がある。

 これらを打破した具体例もあり、それらの事例では、再エネプロジェクト単体ではなく、地域にどのような循環・波及効果をもたらすかを特定・可視化し、ステークホルダーに訴求する点にエネルギーを注いでいる。プロジェクトが生む外部効果や人材育成効果を見える化することが、自治体にとって極めて強力な交渉材料となる。

 現状の環境アセスメントは手続面の評価に偏りがちであるが、社会的インパクトを含む定量・定性評価が重要である。2050年カーボンニュートラル達成に向け、一気呵成に再エネを導入することは現下の経済情勢では難しい。そこで、非財務価値を評価対象に含める枠組みが重要となる。長期投資の本質は、稼ぐ力を維持できるかどうかを見極めること。それを示すにはビジネスモデルの持続可能性を説明する必要がある。地域金融機関もこうした視点を取り入れることで本来の役割を再認識できる。

 これからの再エネプロジェクトの推進では、プロジェクトの外部性や地域にもたらす価値を可視化し、説得力ある地域インパクトを提示できるかがより重要になるだろう。

議事録(キックオフシンポジウム第2部)

2025年5月9日
於:京都大学百周年時計台記念館国際交流ホールⅢ

第2部「パネルディスカッション」(15時30分~17時00分)では、日本風力開発株式会社洋上開発部長の千葉恭平様、千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役の馬上丈司様、一般社団法人徳島地域エネルギー代表理事の豊岡和美様から各々10分の取り組み紹介をして頂いた後、京都大学大学院公共政策大学院教授の諸富徹先生の司会により、パネルディスカッションが行われた。

再エネによる地域活性化~風で、地域の未来をつくるという選択~

千葉 恭平(日本風力開発株式会社洋上開発部長)

 私たちが現在取り組みを進めている中泊町は津軽半島の飛び地の合併で誕生した町であり、旧中里町は農業の町、旧小泊町は漁業の町であった。中泊町では日本の他の地方部と同様に人口減少と高齢化が非常に進んでいる地域であり、2023年時点で人口1万人を下回っており、20年後には4000人を下回ると予想されている。産業構造については一次産業の割合が20%以上を占めている点が特徴的である。

 中泊町では風が強く吹いており、重要な資源とみなされている。脱炭素の取り組みとしてはこれまでは様々な再エネ電力をFITを通じて売電していたのみだったが、近年ではエネルギーの地産地消に取り組む地域新電力事業に携わっている。地域新電力「中泊リージョナルパワー(株)」(中泊町55%、町営企業等45%を出資)は今年の1月に設立され、現在は本格稼働に向けて準備を進めている。洋上風力については再エネ海域利用法に基づいて進められているほか、漁港区域への設置に取り組んでおり、日本風力開発と中泊町の共同出資事業者「ミラスタイル(株)」が100MW程度の洋上風力発電事業の準備を進めている。

 事業計画当初、漁業者にとって洋上風力発電は懐疑的であった。しかし、このままでは地域が成り立っていかないという問題意識から、洋上風力を契機に地域を変えたいという声が出てきた。2022年8月に漁協と水産連携協定を締結し、さらに同年9月には水産物の付加価値向上に貢献する会社設立の取り組みをしてほしいという声から、「中泊さかなプロダクツ協議会」を設立した。同事業については漁協で加工に取り組んでいた婦人部の方々だけでは事業に取り組むのが難しいという背景から、日本風力開発からも社員を派遣し、会社を設立する基礎作りから取り組んだ。様々な困難があったが、「何か面白いことをやっている」という評判から、漁協からの転職者も加わった。現在では中泊さかなプロダクツ協議会に興味を抱いた地域外の方々の参画も見受けられ、「地域おこしプロジェクトマネージャー」や「地域おこし協力隊」などのスキームでの参画が見受けられる。このように、日本風力開発では洋上風力発電の取り組みだけでなく、地域の基幹産業、引いては地域全体をを盛り上げていく取り組みをおこなっている。

営農型太陽光発電による地域農業と再生可能エネルギー発電事業の共生

馬上 丈司(千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役)

 千葉エコ・エネルギーは再エネ事業化支援を目的に千葉大学発のベンチャー企業として設立され、2012年の創業から12期目を迎えた。現在の従業員数は約25名であり、その3割は20代となっており、毎年学部生インターンも受け入れている。

 私たちは太陽光発電に限らず幅広い再エネ利活用支援を行っており、これまでの累計支援実績は220万kW以上となっている。農業参入については8年目であり、所有する約15ヘクタール(グループ会社合計)では、サツマイモ、ジャガイモ、大豆、イチジク、ブルーベリー、ナス、からし菜などの様々な農作物を栽培している。農場は千葉駅から16㎞ほど離れた大木戸町に位置しており、明治以降に開墾された畑地を活用している。近年では、千葉大学倉坂研究室と共同で水田での営農型太陽光発電の実証研究に取り組んでいる。また、千葉市と協力してヒートポンプのみでのイチゴやトマトの栽培にも取り組んでいる。

 千葉エコ・エネルギーにおける営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の目的は「農地における農作物生産と太陽光発電の共生」である。「共存」はお互いが自立して存在している状態を指すのに対し、「共生」は互に関連して存在している状態であり、私たちはは農業と太陽光発電の共生を目指している。

 多くの学生たちが授業の一環や農業体験で私たちが所有する農場に訪れており、そのような様子が農村集落内で好意的に受け止められてきた結果、所有する農地が増えていった。大学発ベンチャーということもあり、行政を巻き込んだり、様々な研究補助金を獲得したりすることで新しい取り組みに着手してきたが、それと同時に同じ地域の住民としての目線を持つことや土地の文化に寄り添うことを大切にしてきた。

 これまでの取り組みにおいて念頭に置いてきたのは、いかにして次の世代に繋ぐのかである。現在取り組んでいることを次の世代に残したいと思うからこそ、農業とその未来を繋げることができる。地域の再エネについて考えるときには、それがいかにして次の世代を豊かにできるのかを考えなければならない。

エネルギーをハピネスに

豊岡和美(一般社団法人徳島地域エネルギー 代表理事)

 徳島地域エネルギーは14年前に3人のメンバーで資金のないゼロからのスタートを切った。現在では「自然エネルギー推進のコンサルティング」「太陽光、小水力発電、風力発電及び木質バイオマス熱利用」「太陽光・小水力発電所等のメンテナンス」「オーストリアETA社他のバイオマスボイラーの輸入代理店業務」「ETA他の木質バイオマス設備の調査設計、設置及びメンテナンス」などの幅広い事業を手がけている。今年の4月には那賀町(人口約7500人)の町役場と共同で出資し、徳島県の企業局の水力発電電力を活用する地域新電力「なかよし電力(株)」を設立した。今後は、同じく出資団体であるケーブルテレビ会社のサービスを中心に様々なサービスを展開していく予定である。

 徳島地域エネルギーは資金のないゼロからのスタートということもあり、事業当初は「地域民間太陽光コーディネート事業」(累計15MW)に集中して取り組んだ。その後、太陽光発電と第一次産業振興を組み合わせた「コミュニティ・ハッピーソーラー事業」(累計1.75MW)や「自社ソーラー事業」(累計1.5MW)「木質バイオマスコーディネート事業(熱利用)」(累計5MW)「小水力発電事業」(累計50kW)などにも取り組んできた。これらの事業と地域新電力事業が生み出す事業利益は、様々な事業主体を合わせて合計150億4600万円となる見込みである。

 事業提案においては、まずポテンシャルのある地域の可能性を「見える化」し、どれほどのリソースが存在するのか、また、何が不足しているのかを明らかにする。そのうえで、どのような便益を掛け合わせると、どのように地域が変化するのかという将来像を描き、それに基づいた事業の提案を行っている。描いた将来像に対して賛同を得ることで、多様な組織からの協力を得ることが可能となる。徳島地域エネルギーは約15名からなる比較的小規模な事業者であるため、多くの人の力を借りることが重要であり、協働によって事業をつくり上げることを重視している。 

 コミュニティ・ハッピーソーラーによる太陽光発電事業は、市民の寄付を集めて事業を行い、寄付者に対し地域の農産物を返礼するという事業スキームであり、漁協との連携実績もある。また、発電所では「ビオトープの整備」「ヒツジによる除草」「進入路植栽」なども行われており、これらの取り組みは太陽光発電事業への理解の促進や新たな人たちを事業に巻き込むことに貢献している。

 バイオマス事業については、近年では兵庫県の880ヘクタールの県有林と契約し、里山の整備をしながら燃料を製造している。また、日本で初導入となる細い道での移動も可能な移動式チッパーを導入しており、このような技術の体験や共有を目的として「神戸バイオマスラボ」を設立した。さらに、県有林を対象に宝塚市や芝浦工業大学、IGESと協力して「持続可能な燃料生産に関する資源調査」をおこなっており、兵庫県からの賛同を得るとともに、取り組みの全県展開を目指している。

パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、再エネ事業における地域とのかかわり方や、再エネ事業をめぐるトラブル、政策環境、地域産業としての再エネ、職場環境などについて3名の登壇者にご議論いただいた。

諸富:皆様のご講演からは共通して、地域の人たちや社内での人間関係の構築が重要であるという印象を受けました。例えば、千葉さんにご紹介いただいた日本風力開発の人材を地域に送り込むという取り組みは面白いと思いました。

千葉:「中泊さかなプロダクツ協議会」は現在は準備組織ですが、ある程度売り上げを確保できるようになったら、本格的な会社として日本風力開発から離れての運営を想定しています。その際には地域の人たちが運営していく会社にすることを想定しています。

諸富:馬上さんの発表では、再エネ事業というよりは農業を通じた地域の再生という印象を強く受けました。そしてその手段としての太陽光発電という位置づけだったと思うのですが、このような新たな取り組みに対して、地域の人たちのやる気を引き出していくにはどうすればよいのでしょうか。

馬上:地域の方々のやる気を引き出すのは重要な課題です。というのも、私たちの取り組みは地域の方々の協力もあり拡大していますが、8年たっても同じことをやろうとする他の人は出てきていません。私たちが活動する集落には18歳未満の住民はおらず、また、高齢化率は60%を超えており、周りの人で私たちのような活動をする人はいないのです。そして、私たちよりも経営規模の大きい、いわゆる豪農の方々は太陽光に何千万円も投じるなら、トラクターを買って畑を広げるという考えが主流です。私たちの取り組みが共感を通じて、周辺に広まっていないというのが課題です。

諸富:千葉さんのお話に戻るのですが、水産業を何とかしたいと考える漁協や漁師の方々は洋上風力発電に対し懐疑的になると思います。今回ご紹介いただいた取り組みに対する地元の方々のポジティブな動きというのはどのようにして引き出されたのでしょうか。

千葉:私が中泊町に関わり始めた2017年というのは、日本で洋上風力発電が本格的に着手され始めた時期でした。当時、私が初めて中泊町を訪れたときには、洋上風力について知識を有している人がおらず、また、漁師の方々も保守的な考えの方が多く、「そもそも知らないから反対」という状態でした。ですので、風車を設置すると騒音が出るのではないか、魚が逃げるのではないか、という意見が拒絶反応のように出ている状態でした。それに加えて、中泊町は県庁所在地から離れてた閉ざされた地域ということもあり、「そもそも東京から来た人間は信用できない」というような風潮もありました。ですので、最初に取り組んだのは私自身が人間として信用される、ということです。例えば、お酒の好きな漁師の方が多かったので、お酒の席にご一緒することで自分自身を理解していただこうとしました。その次には、洋上風力について理解していただくように努めました。実際に、既に稼働している風車の見学をすることで「風車の羽の音よりも波の音の方が大きい」「風車を設置すると魚が逃げていくかと思ったら実は漁礁になっている」といったような新たな発見が漁師の方々にありました。それからどんどん町内での洋上風力の評判は高まり、洋上風力に取り組まなければ地域の未来はないという考えに変わっていきました。

諸富:信頼される人間になる、というのは非常に興味深いです。この点に関して豊岡さんはいかがでしょうか。

豊岡:再エネが地域に入ることによって、どのようなことが起こるのか、どのようなことが守られるのか、どのような利益を受け取ることができるのか、といったことを見える化することが大切がと思います。また、当該地域で味方をつくるというのも近道だと思います。そして、地域の人たちのやる気を引き出すようなしっかりとした提案をするとともに、事業のリスクを提示し、そのリスクは私たちが背負うということを見える化するのも大切だと思います。

諸富:東京の人たちが提案する再エネ事業を地域の人たちが拒む理由として、東京の事業者が地域にお金を落とさなかったり、雇用を生み出しても余剰は残さなかったりという事例があるからだと思います。金銭面に限らず、地域が再エネに取り組んでよかったと思えるような利益を生み出すためにはどうすればよいのでしょうか。

千葉:地域にとって大きな問題は人口減少であり、多くの地域の方々がこの問題を嘆いています。青森県では多くの若者が進学や就職を機に首都圏や仙台に移住し、その後彼らは地域に帰ってこないです。なぜ帰ってこないかというと、地域に雇用がないからです。ですので、私たちの役割は雇用をつくるということであり、風力で言うならば、メンテナンスで雇用を生み、さらには地域の基幹産業の発展に関与することで雇用を生む。地域の方々はこのような雇用から地域の活性化につなげるということを望んでいると思います。私たちはこの点を意識しながら事業に取り組んでいます。そうすることで、再エネ事業は地域から受け入れられていくのではないかと思います。

馬上:私たちが活動している千葉県では、東京に対する見方が他地域とは少し違うように思います。房総半島は東京からの投資をどう呼び込むのかということに注力しています。30年から40年ほど前に、ゴルフ場やリゾート地、ホテルができることによって雇用が生まれるということを経験し、今ではそれがデータセンターや物流施設に変わりました。私たちが活動する集落から10分ほど離れた場所ではイオンが大型の土地再開発をして物流倉庫をつくっています。つまり、企業を呼び込んで土地を高く売りたいというマインドが強い地域なのです。このようなことから営農型太陽光発電の場合のように、自分たちで投資をし続けなければならないという意識があまりないのです。最終的には何かの拍子に開発計画が持ち上がり、自分の土地が高く売れるという成功体験を30年から40年間繰り返してしまったため、それが地域に対して強い愛着を抱くということにつながらないのだと思います。しかし、この点で言うと営農型太陽光発電に関しても企業の投資を呼び込めないかというマインドはあります。
東京の近くに位置するということは、そこから人を連れてくるのが容易だということです。例えば、私たちの活動の一環で多くの学生を農場へ連れていくことが多々ありますが、それをきっかけに農業に取り組みたいと思う人が出てきて、結果として地域が盛り上がるということは少ないですがあると思います。そういった意味では関係人口をつくりやすいというメリットがありますが、従来から住んでいる地域の人たちが自分たちの次の世代につなげるということに関しては課題が残ります。結果的に人口維持はできるのかもしれませんが、農業に対する強い意識というのをどうつないでいくのかというのが課題となっています。再エネ事業で農業をアップデートすることで若者たちの注目を集め、自分たちの子供たちにもそれに取り組んでもらうことができれば、それは地域に対して大きな利益が生まれているということになるのではないかと思います。

豊岡:受け取りたいと思う利益は事業主体によって異なります。例えば、ゴルフ場にバイオマスボイラーを導入した時には、投資回収が早く進み毎月50万円の事業利益が出ていました。また、佐那河内村に小水力発電を導入した時には、集落排水にかかる年間電力料金1千万がゼロ円になりました。そして、東急リゾートさんと蓼科で事業をした時には「もりぐらし」というブランドと脱炭素をブランド化したいというニーズがあったため、それにお応えしました。事業の際には相手が何を望んでいるのかを理解することが不可欠です。金銭的な利益なのか、ブランドなのか、それとも他の何かなのか、それが分からないと合意ができません。ですので、場所や事業によってできることは違うと思います。

諸富:近年では地域の再エネが自然や景観を破壊しうる迷惑設備になっている、というような報道も見受けられます。みなさんはこのような逆風についてはどのように感じておられるでしょうか。

豊岡:逆風は非常に強く感じています。特に、利益率が悪くなっている太陽光について感じています。私たちはいろいろなポテンシャルをみますが、利益が出ない事業と反発の多いところでの事業はやりません。やれないものをやろうとするのは無理があります。他のポテンシャルがたくさんあるのに、やれないことにこだわることで起こる事業機会の損失がかなりあるのが現状ではないかと思います。
バイオマスに関しては、兵庫県で非常に盛り上がりを見せています。放置された里山が問題となっていますが、私たちは880ヘクタールの里山で燃料をつくったり、廃棄物になるはずのものを造園組合さんと一緒に薪にしたりしています。このような喜ばれる再エネというものも多く存在します。PPAに関しても、私たちは屋根の有る施設には導入を進めており、ベランダ型の太陽光にも非常に可能性を感じています。やれる可能性はいつも探りますが、無理やりやる必要というのは無いのではないかと思っています。

馬上:私たちの場合は再エネの反対運動というよりは地域合意形成の難しさを感じています。特に農村では約束や契約はあっさり破棄されてしまいます。私たちは千葉県の脱炭素先行地域の取り組みの一環で営農型太陽光発電に取り組んでいますが、例えば、農家の方から「補助金が出るのならもっと地代を出せるのではないか」といった声が出てきています。農業者をひとくくりにするのはあまりよくありませんが、国内の農地法違反は年間4000件以上発生しており、総務省が農水省に注意をしている状態であり、思っている以上に農地でのトラブルが発生している状態です。このような環境下で契約書を結んでも、事業をやらせないと言われてしまうことが多く、契約は破棄され、計画が頓挫してしまうという状態なのです。このような農家の方は社会的な便益には関心を抱いておらず、自分の懐にいくらお金が入るのかということのみに関心があります。
営農型太陽光発電は農地があり、そして配電網と電力需要があればどこでも可能です。千葉県は全国で一番事例が多い一方で、例えば、富山県では12年間で1件しかありません。これには地域農業に対する考え方であったり、農家の方の姿勢や文化の違いが要因としてあると思います。私たちはソリューションとして営農型太陽光発電をどこにでも提案できますが、どこの農地でも必ずやるべきだという考えではありません。私たちは営農型太陽光発電を通じて「地域課題を解決したい」「農業をアップデートしたい」と思う方々のいるところに注力していくしかないかと思います。しかし、再エネを通じて脱炭素を全国各地域で目指すということになった場合、社会的な意識のアップデートが必要であり、それをどのようにして進めていくのかを考えなくてはいけません。今後の5年、10年がその過渡期ではないかと思っています。

千葉:私は「知らないから反対」と「知ったうえで反対」の2種類の反対があると思っています。知らないから反対という人たちには、単純に理解をしていただくように努めるしかないかと思います。他事業者さんの事例で、八甲田山での大規模な風力発電開発計画が反対を受け、政治問題にまで発展し、計画が白紙になった事例があります。これは青森県外の事業者さんによるものでしたが、おそらくは単純に図面に線を引っ張って作った計画だったのだと思います。やはり、地域の感情というものをしっかりと理解して事業計画というものを立てなければいけません。ちなみに、青森県の津軽というと津軽弁が有名ですが、先ほど紹介した「さかなプロダクツ」に関係している社員は最近、津軽弁が出てくるようになったと思います。それくらいになれば、本当に深い意味で地域を理解できるようになると思います。それくらいの理解をもって、地域再エネ事業を進めていくべきだと思います。

諸富:政策環境に話は移りますが、再エネ事業は東日本大震災後のFITで後押しされてきました。FITはだんだんとフェードアウトしていてFIPや入札制度に変わってきています。また、促進地域の設定のようなゾーニングという手法も出てきており、再エネが成功したからこそ政策環境が変わっているのだと思います。地域再エネ事業に取り組んでいる皆様は現状の政策環境についてはどのようにお考えでしょうか。

豊岡:農水省による営農型太陽光発電に関する政策環境は大幅な改善が必要だと思います。とても複雑で、規制的で、事業も儲からないという状態です。ですので、本日の馬上さんのお話を聞いて非常に頑張っているという印象を受けました。また、横展開が進まない要因もこの政策環境の現状にあるのではないかと思いました。事業によって難易度が全く違うので、難しいものから挑戦するのは避けるべきだと思います。事業の特性を知ることと、もっと意欲的な政策を求めていくことが不可欠だと思います

馬上:政策環境についてはいろいろと思うことがあるのですが、あえて二つほど挙げるなら、まずはFITについてですね。FITは太陽光発電の導入を後押ししたのですが、その間に起きてしまったのは再エネの価値が結局はコストになってしまったということです。つまり、利回りや事業性にばかり注目が集まり、社会的な便益や地域において内部化されていない価値というものが考慮されなかったということです。地域での合意形成のようなソフトな面で非常に手間とコストがかかるのにもかかわらず、再エネの価値は上がらず、結果として何のために再エネを広げているのかがわからなくなってしまうという状況も出てきてしまいました。FITについては賦課金が終了した後には安価な電源として残しておくということですが、それでも私たちが社会的な負担を負いながら再エネに取り組んできた理由が薄まってきてしまっているように感じます。太陽光発電のコストがなぜ下がっているのかと言えば、中国のメーカーが赤字覚悟で太陽電池を大量生産しているからです。10年ほど前は、日本の太陽電池の輸入量や設置量は世界の2割程度でしたが、今では1%から2%ほどとなっています。つまり、たくさんの政策リソースを投入して、国民負担もしているのに、市場が小さくなってしまっており、それを良しとしている政策環境が一番問題だと思います。
もう一点は営農型太陽光発電についてですが、今では農水省、環境省、経産省・資源エネルギー庁、そして国交省という組織が絡んでおり、それぞれがそれぞれの理屈で動いています。私が関わっている範囲では資源エネルギー庁と環境省は積極的で、農水省は消極的という印象です。何のために再エネに取り組んでいるのかという話になるのですが、農水省の目線では農山漁村に再エネを入れるという話です。しかし、農山漁村は食料とエネルギーに関しては都市に売りつけることができれば潤うことができると思います。脱炭素の全国展開についても言えるのですが、東京は倒れないドミノと捉えることができます。東京は自身の力だけでは脱炭素はできないので、そこに対して隣の千葉にいる私たちが再エネと食料をたくさん高値で買ってもらうことで、私たちは潤い、東京も持続可能になる。このような地域間の関係性について何か政策を打ち出していけると、さらに事業がやりやすくなるのではないかと思います。 

千葉:最初から事業者がすべてのリスクを負うという方法では、地域再エネ事業の普及は難しいと思います。洋上風力発電については今後の主力電源のひとつと言われている以上、国がもっと政策環境を整えなければいけないのではないかと思います。先ほどご紹介した私たちの漁港での取り組みはFITに基づいている事業です。具体的に言いますと、29/kWh円です。しかし、これを今時点の採算性で考えるとなかなか厳しい面があります。その要因の一つとして、風車のすべてが海外からの輸入に依存しており、為替の影響を受けやすということが挙げられます。価格に加え、エネルギー安全保障やその他の観点からも、政府の主導で国内での風車のサプライチェーン構築に取り組んでもらいたいと思っています。

諸富:産業としての再エネという点についてですが、この点に関して皆様にお聞きしたいです。太陽光パネルに関しては、1990年代まで日本のシェアは非常に大きかったですが、2000年代から日本のメーカーの凋落が始まりました。そして、FITにより国内のマーケットは大きくなったはずなのに状況は変わりませんでした。風車に関しても、海外支社が無くなってしまいました。日本の再エネ産業は育成に失敗したと捉えられると思いますが、先ほどお話があったように、国内のサプライチェーンの強化に取り組む必要があると思います。これは地域産業としてのポテンシャルにもつながると思いますが、どのようにお考えでしょうか。

豊岡: 私たちが里山で林業をやっていて非常に手ごたえを感じているのは、街路樹や都市公園の剪定枝です。全国の都市公園は11万か所以上あり、東京の都市公園でもたくさんの剪定枝が出ていますが、全く活用されていません。街路樹については60年以上が経って倒れているものがたくさんあります。それらを活用すれば相当な熱量を生み出すことができ、CO2を5%削減できるという試算結果となっています。まずはこのような身近な取り組みから進め、長期的な取り組みとして風力のような大きな産業を育てていくというふうにして、強弱をつけて戦略的に進めていくことが大事だと思います。

馬上:太陽光については取り組みやすいと思います。設置とメンテナンスについては少し知識があればできると思いますし、営農型太陽光発電に取り組む私の視点からは、これらは農業者がやればいいと考えています。ドローンは電気で動きますし、トラクターも電動化されてきており、農業で使うエネルギーはどんどん電化していきます。このような状況下では、農業者にとって電気の知識は不可欠となります。そもそも、初期の営農型太陽光発電も農家さんがホームセンターで買ってきて自分で組み立てるというものでした。農業者が設置やメンテナンスをしなければ、エネルギー基本計画にあるような大量の太陽光発電というものを維持できないと思います。太陽電池に関しては、2050年までに国内に10億枚が設置されるのではないかと言われています。今の何倍もの太陽電池を設置し、更新もしなければいけないので、いろいろな人が手軽にそれをできなければなりません。工業高校で技術者を育てていくことや電気電子系の高等専門学校との提携もやっていますが、こういったことをやっていくことで結果として産業化につながるのではないかと思います。ただし、その前提としての太陽電池産業をどうするのかについてですか、日本が本来強かった分野が今はどんどん落ちている状況です。ペロブスカイト型を含めて、国内メーカーがつくったとしても、最終的には中国企業の生産規模にはかなわなくなります。しかし、これは食料安全保障の観点からコスト的には高くなるけれども地元でそれがつくれることに価値がある農作物と一緒です。最低限のボリュームは国内で作ることができるということを目指さなくてはいけません。ただし、そこで跳ね返ってくるコストを消費者である私たちが受容できるかどうかがカギとなると思います。

千葉:洋上風力に関してはそもそも日本で製造していませんし、建設にはSEP船という何百億円もする専用の船が必要です。青森県では事業者が決まり、これから洋上風力開発が始まるという時なのですが、地元の事業者さんにとっては事業者が決まっても雲をつかむような話で、「自分たちに何ができるのかわからない」という正直な声をいただいている状況です。ただし、洋上風力の建設以外のところでは、例えばメンテナンスに関しては船を使ってアクセスしなくてはいけないので地域の雇用につながります。また、大きな洋上風力は投資であり、その投資は地域に入ります。それに加え、今の一般海域のルールでは事業者を決める過程で、地域で何ができるのか、特に漁業のために何ができるのかというのが評価されるポイントとなっています。ですので、風車建設に関しては厳しいかもしれませんが、メンテナンスや周辺産業、そしてそれに紐づいた観光というのが、大きな投資を梃として進めやすい地域産業振興ではないのかと思います。


諸富:最後に、事業体の持続可能性についてお聞きしたいです。再エネ事業に取り組む人はFITを契機に増えましたが、その次の世代がついてきているのかという視点が大切だと思います。結婚をして、出産をする人や若い人にとって魅力的な職場になっているのでしょうか。

豊岡:現在、私たちのもとには20代から70代の職員がいます。林業を始めたということもあり、昨年はトラックや林業機械、チッパーなどに何億円も投資をしました。これに対し、60代や70代の職員は過剰投資ではないのかという意見でしたが、20代や30代の職員は未来に対する必要な投資であり、楽しいという意見でした。また、兵庫県と協力して事業に取り組んでいますが、その中で公務員の方から弊社に転職してみたいというようなお声をいただいており、私たちの取り組みが楽しいというのは間違いがないと思います。そして、残業は無く、祝日祭日休み、夏休冬休有りとなっており、ワークライフバランスも非常に良いと思っています。

馬上:将来世代を生み出していくというのは私たちの課題として、なんとか取り組めているのかなと思います。農業に関しては、農家さんはこれからさらに減りますが、食べる人口というのは増えていきますので、基本的にはブルーオーシャンだと思っています。一番の若手としてその地域に入っていけば、地域のリソースは基本的にすべて使えるようになります。インフラの更新のようなやらなくてはいけないこともありますが、そこさえクリアできれば、その地域のトッププレイヤーになるのは難しくないと思います。そのうえで、そこに再エネを組み合わせることで、収益や生活を向上させることができます。また、私たちはベンチャー企業ということもあり、自由度は高く、産業や育休を取っているメンバーはもちろんいますし、子育てを考慮して柔軟に働いているメンバーや副業に取り組んでいるメンバーもいます。自由度があり、自己実現のできる職場だというのを打ち出しているのですが、その一方でなかなか学生さんたちに響かないというのは悩ましいところです。大学まで来ている人は人生の見方がある程度固まっているので、そこにアプローチしても響かないなというのが率直なところです。少なくとも中学生以下の学生に、親も含めて考え方を変えるようなアプローチをするのが私たちの課題だと思っています。大学生以上の世代についてですが、千葉大学は千葉県内で社会的に非常にネームバリューが高いです。それを活かすことでやれることは広がり、協力が得やすくなります。その結果として地域課題の解決が進むということを、起業をした第一世代として背中を見せながら示し、次のメンバーを育てていきたいと思っています。

千葉:洋上風力についてはFITで守られていた世界から入札に変わっていく中で、ビジネスモデルも変わっていきました。地域の課題にしっかりと向き合っていかなければ事業は進まない状況です。そういった中で、私は洋上風力発電事業をある意味で総合格闘技だと思っています。従来のように許認可を取り、土地を確保し、建設をするということに加えて地域の困りごとを聞かなければいけません。その困りごとを聞く際には法律や経営などの様々な知識を持っていなくてはいけません。業界としては今の職場環境がホワイトかと言えるかはわかりませんが、これからエネルギー産業という基幹産業をつくっていく業界であり、求められる能力は多岐にわたるため「自分が次の日本をつくるんだ」という考え持っている人にとってはやりがいのある仕事だと思っています。