2025年11月28日(金)研究会 議事録
第6回研究会
2025年11月28日 15:00‐18:00
於:京大吉田キャンパス本部構内「法経東館」地下 1 階 三井住友銀行ホール
登壇者: 若宮淳志先生(京都大学 化学研究所 複合基盤化学研究系 分子集合解析研究領域 教授)
永石暁氏(日揮(株) 未来戦略室 プロジェクトマネージャー)
第6回研究会では、前半に京都大学の若宮教授より、ペロブスカイト太陽電池開発研究の背景や特性、ならびに開発競争の最前線についてご講演いただいた。後半では、日揮株式会社の永石氏より、ペロブスカイト太陽電池の実装に向けた施工および販売に向けた取り組みについてご講演いただいた。各講演後には、院生や地域再エネ共同研究の内外の研究者から質疑応答が行われ、活発な議論が交わされた。
窓や壁が発電する時代へ~ペロブスカイト太陽電池の開発最前線
若宮淳志先生(京都大学 化学研究所 複合基盤化学研究系 分子集合解析研究領域 教授)
本講演では、研究の背景を紹介した上で、ペロブスカイト太陽電池の意義、技術的特長、実用化に向けた課題と展望を示していく。
研究姿勢と問題意識について、材料設計から合成、物性評価、デバイス作製までを一貫して行う研究を特徴としている。小面積セルでは見えない課題(大面積成膜、均一性、再現性など)は、実用化を意識して初めて顕在化するので、それを材料設計へフィードバックすることが本質的な基礎科学につながると考えおり、デバイス作製まで踏み込む姿勢を重視している。
研究テーマとしてエネルギー問題を選んだ背景には、石油・石炭といった化石資源依存の社会の持続不可能性への危機感がある。太陽光を用いたエネルギー創出や資源循環は現代科学者の使命であると考えている。太陽光発電を巡る現状と課題については、太陽光は膨大なエネルギー源だが、従来型太陽電池を現在の製造技術で大量導入する事は難しい。日本ではFIT制度により太陽光導入が進んだ一方、用地不足や環境・景観問題が顕在化している。今後の拡大には、屋根・壁面・防護壁・カーポートなど、従来設置できなかった場所の活用が不可欠であり、そのためには軽量・柔軟な太陽電池が求められている。そこで「印刷のように塗って作れる」太陽電池、ペロブスカイト太陽電池が大きな役割を果たす。
ペロブスカイト太陽電池の特長について、紹介する。まず、シリコン太陽光電とは、光電変換効率や耐久性は高い。しかし、重く、低照度には弱く朝夕や曇りの発電に課題がある。一方で、ペロブスカイト太陽電池は、塗布プロセスで作製でき、極めて軽量・柔軟、曲げることもできる。そして、曇天や室内など低照度環境でも効率が落ちにくいという利点を持つ。これらの特長から、「どこでも電源」と位置づけ、結晶シリコン太陽電池とは異なる用途での普及を目指している。ペロブスカイト太陽電池は、2012年以降急速に性能向上し、単接合で27%、シリコンとのタンデム(直列に接続・積層させたもの)で34%超の変換効率となる。理論的には40%超も視野に入っている。
これまでのペロブスカイト太陽電池開発の取り組みとしては、まず、早期から高純度材料(ヨウ化鉛)の開発に取り組み、再現性の低さという課題を水分管理を徹底することで解決した。そして、ペロブスカイトの物性解明も行った。さらに、塗布技術の開発も行った。
塗って作ることは、強みであると同時に、難所でもある。溶液中で解離していたイオンが乾燥の瞬間に結晶化するため、その一瞬の制御が品質を左右する。特に実用化では、大面積での均一な成膜が重要であり、その技術開発をはじめとした実用化に向けた取り組みも積み重ねてきた。
ペロブスカイト太陽電池独自の強みは、切って使える、まげて使える、低照度でも使えることである。用途としては、屋内センサー、農業、災害時用テント、車載、飛行機やドローン、洋上での利用など、シリコン太陽電池とは異なり、軽量であることや低照度性能を活かす分野が想定される。課題は耐久性であり、目標寿命は10〜15年である。鉛含有に関して規制との関係も重要である。特に、利用が生活に近づくほど、これは重要になる。錫系や鉛・錫混合系の研究も進められている。そして、ペロブスカイト太陽電池は「塗って作り、使い終わったら溶かして回収できる」特性を持ち、資源循環型モデルにも適している。これは将来のシリコンの大量廃棄問題への一つの解となり得る。
実用化に向け、2018年にスタートアップを設立し、2020年には50社以上が参加するコンソーシアムを築いている。普及の戦略としては、特徴を生かしてシリコンと正面から競合しないような、軽量性、フレキシブル性、低照度性能を活かすことを想定している。また、製造技術の開発としては、均一な塗布技術が重要な役割を担う。材料としてはペロブスカイト材料は安価であり、またヨウ素なども安い。インジウムや封止材の費用と、耐久性・封止の技術が課題だが、これらの技術は日本の企業の強い部分である。
今後は、海外とりわけ中国との競争が激化していることも踏まえながら、「技術で勝ってビジネスで負けない体制」をいかに構築できるかを重視することが特に重要である。
実際の講演では、塗布の様子の動画なども示された。またペロブスカイトは、切断しても電池として使用できる特性を持つことから、デザイン性の面でも大きな可能性を秘めている様子も示された。
講演後の質疑応答では、製造コストや利用効率、用途、さらには量産に向けた展開方法などについて多くの質問が寄せられ、活発な議論が行われた。使用原料の観点だけでなく、設置費用の低さも重要な要素として挙げられ、製造過程における国内調達の見込みや、大量生産体制をどのように確立していくかについても確認がなされた。
普及に向けた国の働きかけの必要性についても議論が及び、特に技術開発への支援や需要創出の重要性が指摘された。あわせて、公的な枠組みによる購入の可能性について、財政面を考慮した検討も行われ、リース企業の設立といった具体的なアイデアも示された。
ペロブスカイト太陽電池の早期社会実装に向けた設置施工技術の取組み
永石暁氏(日揮(株) 未来戦略室 プロジェクトマネージャー)
今回は、ペロブスカイト太陽電池分野に取り組む背景と、「どう売るか」「早期社会実装」を中心とした戦略について話す。早期社会実装とは、単に技術を完成させることではなく、施工段階を含めたコスト低減と実際に使われる形での普及までを含む概念である。当社は「こういうマーケットがある」ことを示し、需要創出を通じて技術開発・投資・量産を後押しする役割を担うため、エネコート社と連携している。
会社のルーツは石油精製にあり、オイル&ガスを祖業としながら、時代の要請を受けて脱炭素を重要な柱としている。2010年頃から再生可能エネルギー事業に本格参入し、メガソーラーや風力で大規模な案件も手掛けている。国内事業会社としては、エネルギー以外にも医療・ライフサイエンスなど多様な事業を展開し、社長直下の「未来戦略室」で中期経営計画と新規事業開発を一体で推進している。自社完結にこだわらず、コーポレート・ベンチャー・キャピタルも活用したオープンイノベーションも重視している。
新規事業領域ではフードテックが先行し、完全循環型の陸上養殖や培養肉事業を進めてきた。それに続く形で、私は再生可能エネルギー分野、特にペロブスカイト太陽電池を担当している。エネコート社への出資は2022年だが、2021年のプレシリーズ段階から検討を進め、研究室の設備・研究水準の高さを評価してきた。エネコート社が太陽電池の製造を担い、当社は軽量・薄膜という特性を生かした設置方法と社会実装を担う関係にある。
再エネ事業の方向性は二つある。一つは、設置場所の制約を減らす「どこでも発電所」という新しい発電モデルである。再エネ導入余地の減少や出力制御、市場リスクが顕在化する中で、需要家側から再エネを創出する考え方である。もう一つは、余剰電力の活用・コーポレートPPAを含む電力の使い方を事業として広げることである。
市場環境として、国はGXを強力に推進しており、ペロブスカイト太陽電池には特に大きな期待が寄せられている。技術的には、大面積化と高効率の両立が課題だが、均一な大面積成膜は日本の強みになり得る。一方で、耐久性とコストは依然として重要であり、LCOEを意識したコスト低減、あるいは用途を絞った使い方が不可欠である。環境省では、量産体制と施工方法の確立を様子見している。国交省では、鉄道分野(ホーム上の屋根等)・空港分野(格納庫への設置)等において大きく期待されている。地方自治体単位でも、実証補助の動きが広がりつつある。公共部門での率先導入、脱炭素を高く評価する民間から入っていく見込みである。
会社として特に重視しているのが、建物への設置施工である。薄膜太陽電池は過去にも存在したが、「壁に貼る」こと自体が本当に受け入れられるのかは十分に議論されてこなかった。建築基準法上、設置形態は「建材一体型」、「直接設置型」、「架台設置型」に分類される。前二者は耐火性能の証明や維持管理面でハードルが高い。既存建物への後付けでは、点検や大規模修繕との相性も悪く、需要家の抵抗が大きい。このため当社は、建材と独立した架台設置の方式を中心に検討している。
実証は全国で進んでおり、データセンターの外壁、ガラス張りのビルの内面、曲面屋根を持つドーム球場など、多様なユースケースが検討されている。市場は「照度×規模」で整理でき、当社は大規模・高照度領域を主戦場とする。政策支援も、NEDOプロ、グリーンイノベーション基金、GXサプライチェーン、環境省導入補助金と段階的に用意されており、施工技術やガイドライン整備も本格化している。当社は施工コスト35%削減を目標に、汎用的な施工システムの開発に取り組んでいる。この事業は環境省と経済産業省の連携であるが、来年からは国土交通省も入っていく予定となっている。NEDOでは、フレキシブル太陽電池の設置・施工のガイドラインの策定も進められている。
当社のコンセプトは「どこでも発電所」、スローガンは「REBUILD(建物を再エネ資産に!)」である。山を削るメガソーラーではなく、既存建物を社会資産として発電所化することを目指す。具体的には、NEDO事業に採択され、3年計画で軽量で着脱可能な「シート工法」を開発している。施工モジュール化により現場作業を簡略化していることや軽量性を強みとして、屋根・壁・カーポート・テント建築などへの展開を想定している。横浜、苫小牧、博多駅、福岡空港などで実証と市場訴求を同時に進めている。また、シート工法は、遮熱効果も持ち、熱中症対策などでも期待できる。地場の施工会社との連携による地域貢献も目指している。そして、着脱の容易さが移設を容易にし、PPAのデメリットであった長期契約のハードルも下げていくことが期待でき、これが導入促進でも重要な役悪を果たすと考えている。中小企業への展開を見据え、実証データを蓄積しながらファイナンス・保険と連携して普及を加速させる方針である。
講演後の質疑応答では、余剰電力の活用に関する考え方や、国としての支援の必要性、さらには国際標準化の重要性についても意見が交わされた。土地利用の余地については、技術面・物理的な制約だけでなく、制度面での課題が大きいとの指摘がなされた。加えて、価値の訴求にあたっては、スポット市場の価格変動にどのように対応するのかを示すことで、より説得力のある評価が可能になるのではないかとの意見も示された。
一方で、新しい施工方法であることから、安全性に関する基準が未整備である点が大きな課題として挙げられた。具体的な導入方法については、ビル内にどのように設置していくのかといった実務的な議論も行われ、内窓として導入することで遮熱性を高められる可能性が示された。その反面、室内が暗くなることが課題として指摘されたが、若宮先生からは、透過率を高めることも可能であるとの説明があった。また、室内を暗くすること自体が断熱効果の向上につながるという見解も示された。さらに、クリーンであることに加え、デザイン性といった付加価値を打ち出していくことの重要性についての議論もなされた。
